デカルトの誤りーー情動、理性、人間の脳
書籍情報
- 著 者:
- アントニオ・R・ダマシオ
- 訳 者:
- 田中三彦
- 出版社:
- 筑摩書房
- 出版年:
- 2010年7月
合理的な意志決定には「情動」と「感情」が不可欠であるという「ソマティック・マーカー仮説」。本書は、情動や感情と理性の関係を論じ、また心と自己の深淵にも迫る世界的ベストセラー
原書『DESCARTES’ ERROR』(副題は省略)は、1994年に上梓され、そして世界的なベストセラーとなった。合理的な意志決定には「情動」と「感情」が不可欠であるという「ソマティック・マーカー仮説」は、世界各国の読者に大きなインパクトをもたらしたようだ。日本語版は、2000年に『生存する脳』(講談社)という書名で出版された。原書は2005年に新版となったが、訳者あとがきによると「内容的にはほとんど変わっていない」そうだ。本書『デカルトの誤り』は、この2005年版『DESCARTES’ ERROR』を全訳したもの。
「ソマティック・マーカー仮説」は、神経疾患患者たちに対する「臨床的、実験的研究」に基づいて立てられたもの。本書は、「前頭前野腹内側部」を損傷した患者のふるまいを描き出し、この患者たちに、「推論と意志決定の障害」および「情動と感情の障害」が同時に見られることを浮き彫りにする。
そしてキーワードである「情動」と「感情」の定義など、本書の重要な概念が述べられ、ソマティック・マーカー仮説とはどのようなもので、どのように検証されたのかが論じられていく。著者は、情動と感情という似た言葉を、異なるものとして使用する。情動は「一次の情動」と「二次の情動」に、感情は「情動的感情」と「背景的感情」に分けられている。
著者の論考は、「心」と「自己」にまで広がりをみせる。
心の理解への取り組みに際して、著者が重要視しているのは、「脳」と「身体」は強く相互作用している分離不可能なものであるということ。「脳」と「身体」は分離不可能な「有機体」を形成しており、そして有機体は「環境」と強く相互作用している、と。
著者は、現在の「さまざまな形のデカルト的誤謬」に懸念を抱いている。「デカルトの誤り」とは何か。それが最終章で語られている。
ひとこと
読むのが大変な本だとは思うが、一読の価値がある。脳の一般向け書籍をある程度読んでから手にするのが良さそうだ。