幸福感に関する生物学的随想
書籍情報
- 著 者:
- 本庶佑
- 出版社:
- 祥伝社
- 出版年:
- 2020年4月
本庶佑の研究の歩みを見渡せる一冊。ノーベル生理学・医学賞受賞記念講演後にノーベル財団に提出した原稿を収録している
著者の本庶佑は、2018年に「免疫抑制の阻害によるがん治療法の発見」により、ノーベル生理学・医学賞を受賞。慣例となっている記念講演を行った。
「まえがき」によると、「受賞者は講演後に正式な原稿にまとめてノーベル財団に提出し、財団はこれを保管・管理・出版する」そうだ。
本書には、ノーベル財団に提出した「Biography」、「Serendipities of Acquired Immunity」(英文)と、それを翻訳した「ひょうたんから駒を生んだ、私の幸せな人生」、「獲得免疫の思いがけない幸運」が収録されている(翻訳は、竹内薫)。
それに加えて、書名にもなっている「幸福感に関する生物学的随想」と、「免疫の力でがんを治せる時代」(2019年の「講書始の儀におけるご進講」)が収められている。
生い立ちから語りはじめ、自身の研究の歩みを紹介する
「ひょうたんから駒を生んだ、私の幸せな人生」は、戦時中の大空襲のエピソードを導入に生い立ちを語り、どのようなトレーニングを積み、誰とどのような研究に取り組んできたのかを述べている。この自伝には、知的財産権をめぐる話も登場する。
「獲得免疫の思いがけない幸運」では、クラススイッチのメカニズムの解明、AIDの発見、PD-1の発見、PD-1阻害によるがん免疫療法の開発など、著者の主要な研究について紹介している。一般書としては、詳細に踏み込んだ解説。
また、「免疫の力でがんを治せる時代」(2019年の「講書始の儀におけるご進講」)は、2018年のノーベル生理学・医学賞を受賞した研究について、(10ページで)簡潔にわかりやすく述べている。
「不快感の不在」という視点を取り入れて幸福感を論じる
「幸福感に関する生物学的随想」は、著者が国際高等研究所の「比較幸福学」研究班に所属していた時の論文とのこと。
この論文では、知覚などの生物学的な知見を織り込みながら、「欲望の充足に基づく快感の獲得」と「生命の恐怖に基づく不快(不安)感の除去」という2つの側面から幸福感について考察している。著者の論考は、「快感は飽和する」「不快感の不在で飽きることはない」という視点からなされている。
感想・ひとこと
書名から受け取る印象とは異なり、本書の大半はノーベル財団に提出した原稿(英文)およびその翻訳であり、著者本庶佑の半生と研究成果について記されている本といえる。英文を除くと165ページ。
なお、本書のNDC分類は「460(生物科学、一般生物学)」だが、当サイトでは、他の免疫学の本と同じように「脳・医学」に入れた。