免疫・「自己」と「非自己」の科学
書籍情報
- 著 者:
- 多田富雄
- 出版社:
- 日本放送出版協会(現/NHK出版)
- 出版年:
- 2001年3月
免疫学の歴史を交えて、免疫の仕組みを解説する
本書は、「NHK人間大学」で著者多田富雄が行なった12回の講義をもとに書かれたもの。免疫学の主な話題を、一般の人に向けてわかりやすく紹介している。
導入部は、ニコル・ル・ドウァランと共同研究者の絹谷政江の実験。つぎに、伝染病と戦ってきた歴史を辿る。「免疫という劇場」を紹介(インフルエンザを例に人の体内で繰り広げられる免疫の働きを概説)し、その後で、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)、T細胞、抗体などを説明していく。このような構成で、免疫の仕組みを解説している。
最後に、「超(スーパー)システム」についての論考がある。
免疫学の発展に寄与した科学者たち
ペストの歴史、ジェンナーによる種痘、ルイ・パスツールによる「ワクチン療法」、北里柴三郎による「抗毒素」(後に「抗体」と呼ばれる)の発見、エミール・フォン・ベーリングによる「血清療法」、メチニコフによる「貪食」の発見などを見ていく。
また、抗体産生の学説についての歩みを振り返っている。パウル・エールリッヒの「側鎖説」から、ライナス・ポーリングとハロウィッツの「指令説(あるいは鋳型説)」、ニールス・イェルネの「自然選択説」、マクファーレン・バーネットの「クローン選択説」までを辿る。
ほかにも、「胸腺という臓器が免疫にとって不可欠なものであることを、直接に証明した」ミラーの実験などを紹介している。
このような、免疫学の発展に寄与した科学者たちについて知ることができる。
「自己」と「非自己」の境界はあいまい
自己を守るはずの免疫が、病気を引き起こすこともある。本書では、自己免疫疾患やアレルギーについても論じている。
また、「……「自己」と「非自己」の境界に位置する、いくつかの免疫学的現象について考えてみたいと思う」と記し、「移植、がん、妊娠、消化管」について述べている。
感想・ひとこと
「自己」とは何か、「非自己」とは何かといった哲学的な側面にフォーカスしているのは、同著者の代表作といわれる『免疫の意味論』。本書『免疫・「自己」と「非自己」の科学』では、免疫の仕組みの解説のほうに重点が置かれている。