「宇宙のすべてを支配する数式」をパパに習ってみたーー天才物理学者・浪速阪教授の70分講義
書籍情報
- 著 者:
- 橋本幸士
- 出版社:
- 講談社
- 出版年:
- 2018年3月
「この宇宙のすべてはたった一つの数式で書かれている」ことを伝える
「天才物理学者・浪速阪教授」が、高校生の娘とその友人に、「宇宙のすべてを支配する数式」を1日10分・1週間で教える、という設定。
その「第1講義~第7講義」に、導入の「予習」と「第0講義」、理論物理学者の仕事場やそこでの議論の雰囲気を紹介する「休憩」、結びの「復習(約2ページ)」を加えて、全11章という構成。約170ページ。
各講義の章末には、コラム(「さらに深く知りたい方へ」)、「浪速阪のメール」、娘と友人のLINEでの会話、がある。
本文(各講義)は「高校生の知識のみを前提」とし、コラムは「大学や大学院の物理で学ぶ単語も頻出」する。もちろん、コラムを読み飛ばしても、本文を読み進められるようになっている。
「浪速阪のメール」からは、理論物理学者の日々の思考が垣間見える。娘と友人のLINEは、おもに、講義に登場した用語を使ってのちょっとした会話。
「おわりに」によると、大阪大学で「理系文系が入り混じる」1年生に向けて行われた、「宇宙を支配する数式」と題する講義が本書のもとになっている。
「宇宙のすべてを支配する数式」を読む
まず、「宇宙のすべてを支配する数式」が示される。4行の数式。
「宇宙のすべてを支配する数式」とは、どういう意味なのか。それを理解するためには、つぎの2つだけわかればいい、と浪速阪教授(パパ)が関西弁で言う。「第1に、宇宙は素粒子でできてる。第2に、素粒子には運動方程式がある。これだけや」。
この数式の名前は、「素粒子の標準模型の作用(に重力の作用を加えたもの)」
4行の数式は、数え方にもよるが、ざっくり見ると5つの項に分かれているという。そして、それぞれの項は天才物理学者が書き下したものだと述べ、つぎのように説明していく。
「始めの部分は、かのアインシュタインが書いたんや。もうちょっと正確に言うとな、アインシュタインーヒルベルトの作用、って言われてる。……略……」。
「次の項は、マクスウェルとか、ヤン、ミルズやな。ちょっと日本人の名前も入れとこう。内山龍雄。で、次の項は、ディラックやな。ほんで、その次の項は……」というように名前を挙げていく。
そして、その項が決まるために、もっとたくさんの物理学者が貢献していることも伝える。
それから、数式の5つの項のところに物理用語を書いて、つぎのように説明する。
「アインシュタインは、重力。マクスウェルは、電磁気力。ヤンとミルズは、強い力と、弱い力。そんで、あとの項は、『粒子・反粒子』『湯川相互作用』『自発的対称性の破れ』って書いとこうかな。それぞれの項は、物理学者が、新しいアイデアを自然に持ち込んだ結果、書かれた項なんやで。……」
このような解説から始まり、数式を「読んでいく」。
「宇宙のすべてを支配する数式」は、まだ完全ではない
宇宙には暗黒物質があることが観測によってわかっている。それを再現できるように数式に「新しい項を足す」、ということが考えられている。しかし、それはまだ誰もわかっていないという。つぎのように述べている。
「……暗黒物質が何者か、つまり、どういう項で書かれるものかっちゅうのは、まだ誰もわかってへんのや。まあ、将来、実験とか観測で確認されたら、その項を書いた物理学者はノーベル賞やな」。
本書では、この数式には、たくさんの謎があることも伝えている。
感想・ひとこと
「数式を読む」という解説がおもしろい。素粒子物理学の一般向けの本を好んでいろいろと読んできた方におすすめしたい。
前作(『超ひも理論をパパに習ってみた』)同様、本書が主な読者として想定しているのは、設定とその内容から考えると、物理学が好きな高校生だと思う。