リサ・ランドールの本、どれを読む?
物理学がクリエイティブであることを教えてくれる
リサ・ランドール(Lisa Randall)は、素粒子論と宇宙論を研究している理論物理学者で、「ワープした余剰次元」の理論で注目を集めている。日本でも、NHK BS特集「未来への提言」に出演していることなどから、よく知られている。
リサ・ランドールの著書は、物理学と創造性とが密接に結びついていることを教えてくれる。また、その著書は、数式こそないが、一般向けの書籍としては詳細な説明がなされている。そのため、素粒子物理学そのものの難しさもあって、難解だと感じるところもある。しかしそれは、たとえを駆使した丁寧な説明なので、読み応えという魅力になっている。
著者自身が楽しんで執筆しているからこその魅力ともいえるだろうか。『NHK未来への提言 リサ・ランドール異次元は存在する』のなかで、こんなふうに述べている。
「なぜわたしが新しい概念を考えることにワクワクするのか、どこにそのおもしろさと醍醐味があるのかを人びとに伝えることは、とても重要だと思うんです。本を書いているわたし自身が楽しんでいるということが伝わらなければ、それを読む読者は少しも楽しくないでしょう?」と。
余剰次元とブレーンワールドに興味のある読者はもちろん、素粒子物理学に、あるいは宇宙論に興味をもつ読者には、充実した読後感をもたらしてくれる著者のひとりだ。
リサ・ランドールの書籍
2015年2月1日時点で、リサ・ランドールの書籍は3冊(日本語版)
多彩な話題で、科学的思考と手法を論じる『宇宙の扉をノックする』
「スケール」「宗教と科学の問題」「リスクや不確かさ」「創造性」など多彩な切り口で科学的思考を論じる。また、CERNの大型ハドロン衝突型加速器(LHC)とその検出器であるCMSやATLASを詳細に解説している。インフレーション宇宙、ダークマター、ダークエネルギーなど、宇宙の話題もある。
- 著 者:
- リサ・ランドール
- 出版社:
- NHK出版
余剰次元とブレーンワールドを解説した全米ベストセラーの日本語版『ワープする宇宙』
余剰次元とブレーンワールドを解説するだけでなく、そこにいたるまでの、相対性理論、量子力学、素粒子物理学の標準モデル、超対称性、超ひも理論なども概説。著者のワクワク感が伝わってくる良書。
- 著 者:
- リサ・ランドール
- 出版社:
- 日本放送出版協会(現/NHK出版)
宇宙飛行士の若田光一が、リサ・ランドールにインタビューした『NHK未来への提言 リサ・ランドール異次元は存在する』
リサ・ランドールが、5次元世界の理論について、少女時代や学生時代などについて語る。若田光一の話も披露される。『ワープする宇宙』の日本語版発売に先駆けてのイントロダクションのようなものと位置づけるとよさそう。
- 著 者:
- リサ・ランドール/若田光一
- 出版社:
- 日本放送出版協会(現/NHK出版)
リサ・ランドールの本、どれを読む?
はじめの一冊としては、『ワープする宇宙』をおすすめ。とくに、著者の提唱した「ワープした余剰次元」の理論を知るなら、『ワープする宇宙』を読むのがよい。
『宇宙の扉をノックする』でも「ワープした余剰次元」の理論を解説しているが、前述のとおり、科学的思考とLHCの解説に力が注がれているので、このあたりに興味がある方が手にする本といえる。
簡単にまとめれば、物理理論に興味があるなら『ワープする宇宙』を、科学的思考とLHCに興味があるなら『宇宙の扉をノックする』を選ぶとよいのではないだろうか。
どちらも分厚い本なので、とりあえず余剰次元とブレーンワールドがどんなものかを、ちらりと覗き見るだけなら、『NHK未来への提言 リサ・ランドール異次元は存在する』を手にしてみるのも悪くないかもしれない。これはすぐに読み終わる。
最後にもう一度繰り返したいのだが、おすすめは『ワープする宇宙』。余剰次元とブレーンワールドの解説はもちろん、20世紀物理学の概説もあるので、これは何度も読み返す価値のある、読み応えのある良書。
- 著 者:
- リサ・ランドール
- 出版社:
- 日本放送出版協会(現/NHK出版)
リサ・ランドール profile
理論物理学者。ハーバード大学物理学教授として素粒子物理学および宇宙論を研究する。プリンストン大学物理学部、マサチューセッツ工科大学およびハーバード大学で理論物理学者として終身在職権をもつ初の女性教授となる。1999年にサンドラム博士とともに発表した「warped extra dimensions(ワープした余剰次元)」により、物理学会で一躍注目を集め、今日もっとも業績の引用が多く影響力のある理論物理学者のひとりとなる。米国科学アカデミー、アメリカ哲学会、アメリカ芸術科学アカデミーのメンバー。