心の視力ーー脳神経科医と失われた知覚の世界
書籍情報
- 著 者:
- オリヴァー・サックス
- 訳 者:
- 大田直子
- 出版社:
- 早川書房
- 出版年:
- 2011年11月
視覚障害を中心に、その困難に適応していく人々を描き出す
視覚失認症、失読症、相貌失認症(失顔症)、立体視、視覚心像など、おもに視覚をテーマとし、 それにまつわる研究の歴史や神経基盤の説明を織り込みながら、障害の困難に適応していく人々を描き出している。また、著者自身の視覚障害についても綴っている。
7つの章を簡単に紹介
『初見演奏』では、楽譜を読めなくなった才能あふれるピアニストが、顔や物を見分けられなくなるなど視覚失認症が徐々に進行していくなかで、どのように適応していったかを描いている。彼女の音楽の記憶力と想像力は前より強くたくましくなり、「とても複雑な音楽を暗記し、頭のなかで編曲し直し、再現できる」ようになった。
『生き返る』では、失語症について論じている。ここでは、「用語集のようなもの」と身ぶり手ぶりで、病院のなかで親睦の輪の中心になった女性が登場する。
『文士』では、失読症や読字に不可欠の脳部位について述べ、「文字は比較的最近の文化的発明なのに、なぜ全人類に読字のための能力が組み込まれているのだろう?」という問いを提示し、考察していく。失読症になった作家の適応についても記している。
『失顔症』では、著者自身が相貌失認症(失顔症)であるという話を交えながら、顔や場所のような特定のカテゴリーのみを認識する部位が脳にあるかどうかにまつわる探究の歴史を紹介している。
『ステレオ・スー』では、40代後半になって立体視を獲得した女性の話を軸に、立体視について述べている。
『残像ーー日記より』では、右目の癌を告げられた著者の心境や治療過程を日記形式で綴り、自身の視覚に生じた問題を考察している。
『心の目』では、失明に対するそれぞれの適応を描き出し、視覚心像について論じている。
脳神経科医である著者が、自身の視覚に生じた問題を考察する
著者は、右目に生じた異常から語り始め、右目の癌を告げられた心境や治療過程を綴り、また脳神経科医の視点をもって、右目の中心視力を失ったことによって生じた残像や補完現象、立体視覚の喪失など、自身の視覚について考察する。
感想・ひとこと
これまでも障害の困難に適応していく人々を描いてきた脳神経科医オリヴァー・サックス。本書の特徴は、視覚障害に焦点が絞られているところと著者自身のエピソードが盛り込まれているところ。
障害の困難に適応していく人々の描写と、神経基盤の考察や神経科学の研究史の話題がバランスよく盛り込まれているという印象をもった。