小説みたいに楽しく読める免疫学講義
書籍情報
- 著 者:
- 小安重夫
- 出版社:
- 羊土社
- 出版年:
- 2022年10月
免疫学の知識を見渡せる一冊
免疫学の研究の歴史を辿り、免疫の仕組みを解説し、その後でアレルギー・自己免疫疾患、がん治療における免疫療法などの話題を紹介する。
本書は、免疫にまつわる謎を「問」として示し、その謎を解き明かしていく、という形式になっている。専門用語が頻出し、実験の解説もあるため、この分野の知識を持っていないと読み進めるのに時間がかかるのではないだろうか。そのかわり、それに見合う免疫学の知識に触れることができる。
免疫に関する科学者たちのさまざまな功績を解説
ジェンナーの種痘、コッホの三原則、パスツールの「弱った微生物を使ったワクチンの開発」、北里柴三郎による抗体の発見、北里とベーリングの血清療法、メチニコフによる食細胞の研究、長野泰一と小島保彦による〝ウイルス抑制因子〟の発見(インターフェロンの発見)、バーネットのクローン選択説、遺伝子再構成によって抗体の多様性が生み出されることを発見した利根川進の研究など、科学者たちのさまざまな功績を解説している。
著者の小安重夫たちの研究室を筆頭に三つの研究室が発見した「2型自然リンパ球:ILC2」についても紹介している。これは、2型サイトカインをつくり、寄生虫感染と戦うそうだ。
免疫が「ものを見分け」、「外敵と戦う」仕組みを解説
異物を見つけ出す仕組みとして、レクチン、TLRやNLR、補体、抗体を解説。
また、T細胞がどのようにして異物を見分けているのか、T細胞は「どうして自分を攻撃しないのか(自己寛容)」について、一般書としてはかなり詳細に説明している。
T細胞とB細胞がどのように「会話」するのか、抗体をつくるB細胞のはたらきについても詳しく解説している。
他にも、ナチュラルキラー(NK)細胞、樹状細胞、マクロファージ、好中球など、免疫に関する多彩な「登場人物」を紹介し、免疫の複雑で巧妙な仕組みを浮き彫りにする。
感想・ひとこと
免疫をメインテーマにした本(もちろんポピュラーサイエンス)を何冊か読もうと思い、入門書として最初に選んだのが本書だった。読んでいる最中は、もうすこし簡略化した説明の本を二、三冊読んでから手に取りたい本だと思っていたが、読み終えた今では最初でも良かったかもしれないと思うくらいの満足感がある。
私にとっては、専門用語が多く、また注意深く読む必要のある実験の解説が多いため、楽しくというより、辛抱強く読む本だった。前のページに戻って確認することもあったが、その時には巻末にある「さくいん」が役に立った。(ちなみに巻末には「免疫のしくみを明らかにしたさまざまな発見の年表」もある)
上述したとおり、免疫学の知識を見渡せる一冊なので、専門用語や実験の説明のある本が苦手でなく、生物学のポピュラーサイエンスを読んでいる読者なら、本書を入門書とするのもありかもしれない。