脳のなかの幽霊、ふたたび
書籍情報
【角川文庫】
- 著 者:
- V.S.ラマチャンドラン
- 訳 者:
- 山下篤子
- 出版社:
- 角川書店
- 出版年:
- 2011年5月
著者のリース講演(一般の人にもよくわかる講演)が本書のもと
幻肢、カプグラ症候群、共感覚などが起こる神経基盤を解説するほか、芸術を神経学の観点から推察するユニークな試みがある。最終章では、自己とクオリアという哲学的な問題も考察する。2005年に刊行された単行本に修正を加えて文庫化された。
カプグラ症候群とは何か。その神経メカニズムを考察する
カプグラ症候群とは、親しい人を偽物だと主張する奇妙な症状のこと。本書の患者さんは自分の母親を見て、母そっくりだが母のふりをしている偽物だと言う。彼はこの妄想以外はとくに問題がない。知的で、会話もなめらかで、情緒的にもほかの問題はない。この奇妙な症状の原因は、視覚と情動をつなぐ経路の断絶にあることが丁寧に解説される。
芸術を神経学的に推察する「神経美学」。著者がかかげる芸術の普遍的法則の一つが「ピークシフト」
「視覚イメージに対する美的な情動反応」という芸術の側面を考えれば、視覚中枢と情動中枢の結びつきは芸術にも関与しているはず、と著者は考える。芸術といっても国や時代により多様な様式があるが、この多様性の根底には「脳に共通の普遍的法則」があるとし、これらを神経学の観点から探る試みが「神経美学」。著者は、10の普遍的法則を掲げるところからはじめる。
たとえば、法則の一つである「ピークシフト」の解説は、ラットやセグロカモメのヒナの行動から、現代アートを購入する芸術愛好家のふるまいを照らしだすユニークな推察となっている。
ひとこと
本書はラマチャンドランの著書にしては薄い(新書レベル)。『脳のなかの幽霊』『脳のなかの天使』ともにボリュームがあるので、厚い本が苦手な方には本書がよいかもしれない。『脳のなかの天使』を読んだ方は、本書を読む必要はないと思う。
初投稿日:2014年09月05日