炭素文明論ーー「元素の王者」が歴史を動かす
書籍情報
- 著 者:
- 佐藤健太郎
- 出版社:
- 新潮社
- 出版年:
- 2013年7月
炭素化合物という切り口で、人類の歴史を見ていく意欲作
「炭素こそは生命・文明にとってのキープレイヤーであり、そこには現在よりもさらに多くの注目が注がれるべきだ」、そんな思いをエネルギーにして本書を書き進めてきたそうだ。
著者は炭素を「元素の絶対王者」と呼ぶ。たくさんある元素のなかで、なぜ炭素が絶対王者なのか。それは「小さく平凡」だからだという。炭素は中性であるため「長く連結し、安定かつ多様な化合物」を作ることができ、また「最も小さな部類の元素」であるため「短く緊密な結合」を作ることが可能だそうだ。
私たちの体の組成を見てみると、炭素は18パーセントを占め、「水分を除いた体重の半分は炭素が占める」ようだ。「全ての生物の基礎を成すのは炭素」であり、「生命は、自然界に存在するわずかな炭素をかき集めることで、ようやく成立しているといえる」と述べている。私たちはたくさんの炭素化合物に囲まれて暮らしているが、炭素は自然界にごくわずかしかないようだ。
そして、炭素は文明社会にとっての「キープレイヤー」であると著者は言う。本書は炭素化合物という切り口で、人類の歴史を見ていく意欲作だ。登場する炭素化合物は、デンプンからはじまり、砂糖、カフェイン、ニトロ、石油など、さまざま。
そんな炭素化合物たちが主役の本書ではあるが、「最も基本的な窒素化合物」であるアンモニアもとりあげられている。アンモニアのところでは化学の素晴らしい成果である「人工窒素固定」について、その問題点も含めて語られている。
また、「カーボンナノチューブ」「メタンハイドレート」など、注目の話題もある。
著者は「大学・大学院で有機化学を専攻し、製薬企業で十年あまり研究者として働いてきた経歴」をもつ。
ひとこと
巻末には「主要参考文献」がずらりと並んでいる。本書でとりあげられた話題をもっと知りたいと思ったとき、この参考文献が役立ちそうだ。