脳のなかの幽霊
書籍情報
- 著 者:
- V.S.ラマチャンドラン/サンドラ・ブレイクスリー
- 訳 者:
- 山下篤子
- 出版社:
- 角川書店
- 出版年:
- 2011年3月
脳ブームの先駆けと評される名著。奇妙な症例の神経基盤がつぎつぎと考察される
1999年に刊行され、ロングセラーとなっている名著が文庫化された。本書ではさまざまな奇妙な症例が登場する。切断された四肢があると感じる「幻肢」、左側の世界を無視する「半側無視」、ほかにも「盲視」「カプグラ妄想」「想像妊娠」など不思議な症例がいくつもとりあげられる。著者はこうした症状の神経基盤を「探偵」のように解き明かし、そのたびに脳の不思議が鮮明に浮かび上がる。そして最終章では「クオリア」と「自己」を考察する。
幻肢の研究をとおして浮かび上がるのは、私たちがもつ身体イメージのはかなさ
切断された手や脚があると感じる「幻肢」。この幻肢は、動いたり(あるいは麻痺したり)、ひどい痛みをともなったりする。著者はこの幻肢の神経基盤を、なぜあると感じるのか、なぜ動かせる(あるいは麻痺している)と感じるのか、なぜ痛みを感じるのか、という三点から考察する。「鏡」を用いて幻肢を治療する有名なエピソードも登場。そしてこの幻肢の実験研究が示唆しているのは、私たちのもつ身体イメージが、いかに「はかない」ものであるかということ。著者はこれも具体的な実験によって示す。
「半側無視」と「鏡失認」の不思議
左側の世界を無視する「半側無視」。左側が見えないわけではないが、左側に注意を向けない。そのため顔の左半分のみ化粧をしなかったり、左側が欠けている花の絵を描いたりする。
著者はここでも鏡を用いたアイデアを試す。患者の右側に鏡を置く。鏡には、無視している左側に置かれたペンが映っている。つまり、ペンの位置は無視のある左側だが、その情報は無視のない右側から入ってくるという状況。患者は鏡の性質をきちんと理解している。では、患者にペンを取るように言うとどうなるか。ある患者は鏡に手をつきだし、鏡を叩き爪で引っ掻き、いらいらしながら手が届かないと言った。著者はこれを「鏡失認」と名づけた。こうした奇妙な症例がなぜ起こるのか。神経学の観点から解説される。
ひとこと
脳の不思議が感じられる名著。著者の博識ぶりに、知的好奇心が刺激される。